一応、二小節ぐらいは歌っておこうと思った。しかし、一小節を歌い終わった時点で、大事件が起こっていた。


「・・・・ストップ」


すぐにピタッと歌うのを止めた。会長は目を閉じたまま、気にしていることをズバッと言い放った。


「お前の歌、めっちゃノイズだな」


ゴゴン、と落石事故が起きた。自分でも分かってるよ、音痴なことぐらい。いつも音楽の成績は2ですよ!


そして、とどめを刺すかのように余計なひと言を言う。


「ヒビ音符、欠け音符が飛んでる」


私は腹が立ち、仮眠室から出てった。絶対、ワザと歌わせたな。あのサド会長!


イライラしながら、承認の判を押した書類を会議室まで持っていく。一生目覚めなくていい、あの男!


会議室に続く渡り廊下にさしかかった、その時。


♪~♪~♪~


耳をピクッとさせた。何処からか、素敵な音色が聴こえる。何の音だろう?


さっきまでイライラしてたのに、一気に和やかな気分になった。私は気になり、会議室へ寄らずに、書類を持ったまま、音のする方向へ向かう。


どんどん音がはっきり聴こえるようになる。近くだ、どんどん足早になっていく。


この扉の向こうから聴こえる。たしか、この先は裏庭のはず。誰かが音楽を掛けているのか?


ドキドキわくわくしながら、気づかれぬように扉を少し開ける。そっと覗き見をする。
誰かの背中が見えた。低い背丈に金色の髪・・・・。その手には長い銀色の棒のようなものが見える。


(あれは・・・・もしかして・・・・)


金髪の生徒会メンバーは一人しかいない。


書記を担当している、2年生の等々力アルターレ先輩だ。


♪~♪~♪~♪~


間近で聞くと、もっと心が落ち着く。何だか不思議、嫌なことが一瞬にして吹き飛んだ。


(もっとよく・・・・あっ)


ギィ・・・・


欲張りすぎて、扉の音が響いてしまった。