ということは、つまり・・・・・。


「く、椚先輩!」


小さくなった身体が元の大きな身体に戻った。実の兄貴に対して土下座するなんて、根性あるなとは思ったけど、それだけマジだということが分かった。



「よかったですね、先輩」


駐輪場に戻る際、私はうきうきしながら言った。自分の事のように嬉しかった。
家に戻る決意をしてくれたことを。


いつものように「・・・」かと確信した。


「・・・お前のおかげだ」


「え・・・・!?」


声を上げた。今、私にお礼しなかった!?


呆気にとられていると、椚先輩の大きな手が私の頭をくしゃっと撫でた。


「わっ・・・・」


「・・・ありがとな、もとか」


口調はいつもと同じ。でも、棘がない優しい言い草。しかも、私の事「もとか」って呼んだ。ほとんどお前かアンタなのに。
私の頬が赤く染まっていく。


「いや・・・・お礼なんて、そんな・・・・」


照れながらひょいっと椚先輩の顔を見た。


その横顔は清々しく、そして、顔が緩んでいる。


(椚先輩が・・・笑ってる!)


初めて見る笑顔。あの無愛想でいつも不機嫌そうな顔している椚先輩が笑っている。
初めて会った頃こそは「恐い先輩」というイメージしかなかったけど、この数日で一気に距離が縮んだ気がした。


「・・・ところでお前、覚えてないのか」


「ほえ?」


覚えてないって、何が?


「何のことですか?」


「・・・覚えてないなら教えん」


「何ですか、すっごく気になるじゃないですか!!」


結局、椚先輩は教えてくれなかった。私、先輩に何かされたのか?
全然覚えてないけど、合宿の事件から唇が熱いのは気になるところだけど。