「何の用だ?そいつと結婚したいっていう挨拶か」


何とんでもないこと言ってんだ、コイツ。


「・・・コイツは関係ない。ただの付添いだ」


「ふーん。で、話って何だ?俺はお前と違って忙しいんだから、さっさと済ませろ」


「・・・家に帰ることにした」


私も兄貴も絶句した。


「・・・・どういう風の吹きまわしだ?冗談やギャグだったら受け付けねぇぞ」


「・・・本気だ。この家に帰る。そして、医学を学ぶ」


「ふざけるな!!一族を捨てたお前に、もう用はないっ。医学を学んで、医者になろうって?邪道を進んだお前に何が出来る!」


すると、椚先輩は跪いた。兄貴の前で土下座した。
私が前に会長にしたことがあるけど、これとそれとでは意味が違う。心臓がバクバクいっている。


「・・・俺は医者の血を恨み続けて生きてきた。だけど、俺の無責任で人を殺してしまうことになったら罪は重い。一人でも多くの人を助けたい、そう思った」


小さい頃から医者になるために、スパルタ教育を受けてきた。それから脱出したくて、家を捨てた。でも、医術は自然と自分の中に入っていった。みんなが出来ないような治療が、自分には出来た。


そして、治療したことで病気や怪我が治った姿を見ると、心がすっと晴れた。
嬉しくて、たまらなかった。


今回の一件で決意したことだった。


「・・・もう一度、一から学ばせてください」


兄貴は無言どころか、無視をして自動ドアの前に立つ。
このクソ兄貴、弟がこんなに懇願してるのに聞く耳持たずか。冷たいと思っていた先輩が、こんなにも熱くお願いするなんてめったにないことなのに・・・・。


「・・・・俺はお前を許すことは出来ない」


椚先輩は頭を下げたままだった。兄貴はそのまま病院の中に入る。ドアが閉まろうとした時、言い放った。


「・・・・両親には、俺が話しつけとく。だが、そう決意したならビシバシしごくからな。逃げ出したりしたら、お前との縁はそこまでだからな」


バタン、と自動ドアは閉まった。