わざとらしく携帯をひらひらと見せびらかす。

「返してほしい?」


会長の口元がニヤリと向上する。入学式で見た時とは一変、意地悪な側面を見せた。
イケメンなのは変わりないが、とても同一人物には見えない。

まるで、玩具扱いしているような。

私はグッと堪える。


「……ぃ」


「えー、何だって? 声が小さすぎて聞こえないんだけど?」


わざとらしく、耳を傾けてきた。手の平の中で、長い爪を立てる。自信がなくて怖いけれども、喉から必死で声に出して言う。


「……携帯、返してください」


すると、会長はフンと鼻を鳴らす。小ばかにしたような笑い方に苛立ってくる。


「んー、でも君は校則違反したしなぁ」

「こ、校則違反?」

「あそこは草薙財閥の私有地だ。それなのに君は無許可で侵入した」


つまり、あの御神木の丘に勝手に入った私は犯罪者なのか。
血の気を失せていく私を見て、会長の笑みはさらに広がる。


「本来なら、刑務所にぶち込むところだけど、お願いを聞いてくれたらチャラにしてもいいけど」


「お願い、ですか」


会長は立ち上がると、超至近距離で私の顔に近付いてきた。目の前の美しい顔に思わず後退りしてしまう。


「明日の新入生歓迎会で、新入生代表としてスピーチやってくれない?」


「ス、スピーチですか!?」

予想外のお願いに素っ頓狂な声が飛び出す。


「本当は代表者がいたんだけど、入学寸前に入院しちゃって辞退することになっちゃってね。代役も立ててないし」


「そんな……」


自分でもわかるぐらいに眉を下げて困った顔をすると、会長は鼻でフッと嗤った。


「別に嫌なら断ってもいいんだよ? それだったら、これは要らないってことで」


携帯を開き、両手で折ろうとする。私はギョッと目を剥く。


「ちょ……何するんですか!?」


「引き受ける? 引き受けない?」


部屋中にバキバキと音が響き渡る。どうやら本気らしい。
このままでは、入学祝に買ってもらった携帯電話が無残に真っ二つにされるビジョンしか見えない。


私は歯を食いしばる。本当は嫌でたまらないが、手遅れになる前にこの短い時間で答えを出す。


「……分かりました、やります」


会長は手を止めた。不気味な笑みを見せながら懐から二枚を取り出し、私に差し出してくる。


「それじゃ、原稿用紙二枚分ね」