よ つ の は

―「なぁサクラちゃん… 今からいいもの見せてあげるよ」

「えっ、今からって…」

「いいから、ほらっ…―!」

そう言って ミヤビさんは、私の右手を握り 走りだした…


大きくて、あたたかい手…
その手のひらから伝わる優しさに、私の全ては包み込まれていった…

―どこでもいい…
このままどこか知らないところへ連れ去って欲しかったから…―



「はいっ、コレかぶって!」

「こ、これって… ヘルメット?」

「そうっ! さっ、早く乗って!」

「う、うん…」


バイクに乗せてもらうのは、生まれて初めてだった…
それに、男の人とこんなにも近い距離で乗るなんて…

―ブォン!ブゥン!…
 ブブブゥルルルルルッ…―



―私もミヤビさんも、お互い何も話そうとは しなかった…

夕暮れの少し冷たい風と、しがみついたミヤビさんの背中から伝わる あたたかい体温を肌に感じながら、早くなる心音を気付かれないように バイクの振動でごまかして…

そのまま ゆっくりと目を閉じて、まぶた越しに見える夕焼けの光を見つめながら…

優しい背中で、私は少しだけ泣いた…―




あの時ね、悲しかったんじゃない…

嬉しかったんだょ…