チコは数歩後ずさりして、改めてそれを眺めた。「弱虫め、やっぱりお前は臆病者だ。ただの人形じゃないか。こんなのに触ることも出来ないなんて・・・」チコはそこで口を噤だ。そんなことを言うと、人形が腹をたててこちらに手をのばして来るようなきがした。そして、彼らの住む世界へ引きずり込まれる、丸い暗闇の中へ・・・。
彼は今、自分を思い切り苦しめてやりたい気分になっている。

そこは、その家の狭い玄関ホールで、入り口のドアの扇型の窓から射し込む陽光は、紫がかり始めていて、裏庭には彼がしゃがんですっぽり入れるほどの穴が掘りあがっていて、そして、彼の目の前、入り口のドアの右脇には何とも言えず不気味な人形がいる。それは、目を閉じた美しい顔立ちをした少年を象ったオルゴール仕掛けの人形で、せたけはたぶん、チコの膝あたりなのだろうが、今は床に寝かされているので、正確なところは分からない。たった今、その背中のねじをまいてみた所だった。仰向けに寝ている少年の木の体からは、何とももの悲しい旋律があふれて来る。誰がそれをそこに寝かせたのかと言うとそれはチコムニョスだった。