ストロベリーフィールド

「ねぇ、翔は卒業したらどうするの?」

しばらく涙を流した後、翔から離れると聞いた。

「俺は……まだ決めてない」

翔は何かを紛らわすようにタバコに火を付けた。

そして言葉に詰まっていたのに、翔の目に迷いは見えなかった。
だけど私は、それ以上聞かなかった。

きっと、翔は一人悩んで決めた大きな決断だろうし、聞いても教えてはくれない事もわかっていたから。


何も言えないまま時間だけが過ぎる中、部屋に響き渡る蝉の泣き声に、ふと思い出した。

「そうだ!海に行く日、もう聞いた?」

「あぁ、二週間後だったよな」

「うん、楽しみだね」

"楽しみ"なんて、とっさに出た嘘を見透かすように、翔は微笑んだ。




日が暮れ始めた頃、家路につくと、翔の姿を思い出していた。
今まで吸わなかったタバコを吸い、部屋にあった焼酎の瓶は新しくなり、あの爽やかな香りも部屋に漂っていた。

やっぱりあの男が――

そんな思いは振り切っても消えず、出るのは溜め息ばかりだった。

和希の所へ行って、元気を分けてもらおうかとも思ったけど、惚気を聞きたくなくてそのまま家へ帰った。
そしてベッドへと倒れ込み、枕に顔をうづめた。
自然と流れる涙を拭う事もせず、ただ時が過ぎるのを待った。

どうして恋しちゃったんだろう……
どうして翔なんだろう……

そればかりが頭の中で回っていた。

友だちだったはずなのに、いつからか恋をして、気付いた時にはもう手遅れだった。
だけど、叶わぬ恋を貫ける強さを持っているわけもなく、どうしたらいいのか、一人想いを巡らせていた。



それからまた、連絡を絶った。
和希からは何通もメールがきて、家にも何度か来たけれど、会いたくないと帰ってもらった。
和希はわたしが会おうとしない理由を聞こうとはせず、くだらないメールを毎日送ってきた。

和希に話せば楽になるかもしれない。
そう思ったりもしたけど、啓太と別れたばかりなのにもう次の恋をして、軽い女だと思われたくなくて言えなかった。

翔と同じくらい、和希も失いたくなかった。