ストロベリーフィールド

徐々に冷静さを取り戻した鼓動は、部屋に響き渡るチャイムの音に再び動きを早めた。

翔はふっと息を吐くと笑顔を見せ、玄関の扉を開けた。

「やっぱり」

翔の声に玄関へと目をやると、旅行にでも行くかのような大きな鞄を肩から下げた和希が立っていた。

和希は部屋に入ると、はち切れそうな鞄のチャックを開け、枕とタオルケットを取り出した。

「彩のもあるぞ」

満足そうな笑みで、和希は鞄からもう一つ、枕とタオルケットを出した。

和希が枕を持ってわざわざやってきた理由がわからず、ただ満足げな和希を見ていると翔は、さっきメールがあった、と小さな声で言った。

「それにしても暑いな」

Tシャツの襟を摘み、パタパタと風を送りながら、和希は扇風機の前に陣取った。

「お前ら二人して同じ事すんだな」

翔は冷えた麦茶を和希に差し出すと、いつもの呆れたような笑顔を見せた。




和希が来てからの翔は、よくしゃべっていた。
その姿はまるで、好きな子に会えた女の子のようだった。


「今日も和希の横で寝るなんて……」

ベッドの横に和希と枕を並べると、背を向け呟いた。

「寂しくなくていいだろ」

和希は豆電球の光る天井から、視線を動かさなかった。

「……ありがとう」

和希なりの優しさなのだろうと、単純に思っていた。

だけど私は、和希が思っているほど、落ち込んではいなかった。

和希や翔がいてくれたからなのか
啓太への気持ちが薄れていたからなのかは、自分でもわからなかった。



「なぁ、翔。彩の事、ありがとな」

しばらくの沈黙の後、私が眠ったと思ったのか、和希は言った。

「別に、礼を言われるようなことじゃねーよ。友だちなら側にいてやるだろ」

翔の"友だち"という言葉に、落ち込んでいる自分がいた。

「多分……彩の力になれるのは、翔なんだろうな」

和希の囁くような言葉に、翔は返事をしなかった。