ストロベリーフィールド

「この部屋、暑くない?クーラーとかないの?」

溶けてしまいそうなアイスを持って、翔の部屋へ行くとぼやいた。

「扇風機で十分だろ」

翔は早速アイスをあけて食べ始めていた。

「あれ?翔って香水付けるの?」

ベッドにもたれている翔から、いつもとは違う、爽やかな香りがした。

「つけねーよ」

翔の言葉に、違和感を感じながらも、それ以上は聞かなかった。


私は扇風機の前に陣取り、アイスを食べ始めた。

「全然、風こねーんだけど」

振り返り、ふて腐れる翔に笑顔を向けた。

「あ、この人かっこいいよね」

翔の読んでいる雑誌の表紙を、スプーンで指した。

「俺はこっちだな」


翔は笑顔で、開いているページを私に向けた。

「あー、この人も捨てがたいっ!」

そう言って翔に笑顔を向けていると、女の子と話しているような錯覚に襲われた。
それがまた心地よくて、ずっと側にいたいと思った。


「翔って、女の子は絶対好きにならないの?」

突拍子もなく言う私に、翔は以前のような動揺も見せなかった。

「どうだろうな。小学校の時に好きな女の子がいたけど…。まぁ、今は魅力を感じるのが"男"なんだろうな」


この言葉に、翔は人間として、私なんかよりずっと成熟しているように思えた。
きっと、辛い事だって山のようにあるのに、それでも自分の思いを貫く強さを持っているんだと、勝手に思い込んでいた。



夕方になっても私は翔の家でダラダラとしていた。

「あー、帰るのめんどくさい」

「じゃあ泊まってけば?」

台所に立ち、米を研ぎながら翔は言った。

「いいのっ?」

飛び起きると、翔の背中に向かって叫んでいた。

「そんなに嬉しいか」

振り返った翔の笑顔にうなづいた。