かくれんぼ

あの日もわたしと蒼で伝説の泉を探していた。
都市伝説でもなんでも二人を結びつけておくものがあるならそれにすがりたかった。

蒼がビーズの指輪を買ってきてくれてくすぐったいような気持ちでわたしはそれを受けとった。結婚指輪の代わり。伝説の泉の前で交換しようと言ってくれた。離れ離れは悲しくて悲しくて今にも泣きそうだったのに、蒼のくれた指輪はわたしたちの確かな証のように思えた。

そしてこの場所でわたしたちは喜びの余り駆け出した。崖に気づかないまま。

「葵!!!!!」

落ちそうになったわたしの身体を後ろから引っ張り戻してくれた。蒼だった。

「馬鹿!!!もうすぐ落ちるとこだったろ!!!もう心配させないでくれ!!」
蒼は泣いていた。

わたしは全てを思い出してぽつりぽつりと蒼に話しかけた。
「蒼、あの時ビーズの指輪を伝説の泉で交換して、キスしようって顔真っ赤にして言ってたよね」
「うん」
「うれしかったなぁ。なんだかんだ言ってわたしの夢は蒼のお嫁さんだったから」
「俺の夢も葵を俺のお嫁さんにすることだったよ」
「でもみんなにも祝福してほしいから18歳のわたしの誕生日にもう一回結婚式しようって約束したよね」
「うん」
「欲張りだったね。二人で永遠を誓えたらよかったのにね。二人だけでこの幸せを分け合うのはもったいなかったんだよね」「うん」
「伝説の泉探しにきて、なかなか見つからなくてさー焦っててさー水音聞こえたときあぁやっぱり神様は私たちを祝福してくれてるって思って、わたし駆け出してさ」
「葵は考えるより身体が動くタイプだったもんな」
「ふふ。それで今みたいになって・・・」
「うん」
「蒼がわたしをかばって谷に落ちたんだよね」