嵐の車に乗り、線路沿いを走る。
汽車が通るたびに、さらさらの雪が舞い上がって視界を阻む。

「なんでこんな天気の悪い日に同伴?」

さっきから嵐のペースに乗せられている。
シートに体を沈めて目を閉じ、嵐の車のオーディオから流れている曲に耳を傾ける。

「伊織ちゃんはなんでユウイチくんと別れたの?」

その話はしたくなかった。

「どうだっていいでしょ。私が話す理由なんてない。」


嵐が車を停めた場所はとある寿司屋だった。


「さっき食べたばかりだけど少しだけつまもうよ。」
私に有無は言わせず車から降りた。

店の戸を開けると

「いらっしゃい!」

威勢のいい大将があいさつしてきた。

「おまかせで」

すぐにおかみさんがお茶を運んできた。

「女の人連れてくるなんて初めてじゃない。嵐くんの恋人なの?」

思わず吹き出すと嵐は笑いながら、


「運命の人かな。あっ、伊織ちゃんね。」

と言ってお茶に口をつけた。

「なっ・・・」

突っ込もうとした矢先にタイミングよく大将が握りを置いた。


「美味しい・・・」

「だろ?だからいつも出勤前ここで食べてんの」

嵐はニコニコしながら次の握りに手を伸ばした。
とても女の子を堕としていく悪魔には見えない顔。
この笑顔が皆を惹きつけて離さないのだろう。