しょうがないのでシェアメイトのチョコレートドーナツを拝借し、
それをくわえながらヘコンデルタに乗り込んだ。


「これじゃミックの事言えないな・・・」


「それにしてもマズいなこれ」


「やっぱ朝からチョコはまずいな」


俺は飲み込む事ができず、くわえたままだった。

しかしそこらに捨てる事もできない。

というのも東京と違ってケアンズはポイ捨てしている人など一人もいない。

まだケアンズをよく知らなかった頃、
ヘコンデルタに乗りながらタバコをポイ捨てしたら
近くを歩いていた若いオネエちゃんに


「ヘイ!」


と呼び止められた。

そのオネエちゃんちょっとしかめっつらで


「そんなものポイ捨てするな!」


と俺に叱りつけた。

その時は「若いのにしかっりしてるなー」と感心した。

そういうことがあったのでゴミ箱が見つかるまで
ひたすらバイト先へ向かった。

するとこの暑さ、5分もしない内にチョコレートが溶け出し
顔中チョコレートだらけになっていた。

バイト先に行く前に急いで公衆トイレを見つけ、
チョコレートまみれになった顔を洗おうとした瞬間、
鏡に映る自分の顔を見て驚いた。


「俺はシャネルズか!」


濡れた顔をTシャツで拭いて急いでバイト先へ向かった。

なんとか遅刻せずにすんだ。

ミックは俺に気付くなり


「Hey man!」


やったじゃねーか!と言わんばかりに俺を抱きしめた。

俺はニヤニヤしながら仕事を始めた。

帰り際、ミックからの誘いを待っていた俺にミックが


「仕事終わったらミキの所行くけどもちろん来るだろ?」


「Yeah sure!」


それからというものミックは特に誘う事もなく、
俺が来るのが当たり前になった。

仕事も楽しかったが、仕事が終わってサマーに会うのが待ちどうしかった。