よく考えてみると俺はパイ毛をむしった後、
毛を払うわけでもなくそのまま身体全体をタオルで拭いてしまっていたのだ。

要するに俺のパイ毛がまだタオルにまとわり付いていたのだ。

ロッククライミングのチャンピオンの様に風が吹こうが、
なにをしようが堕ちる事はなかったのだ。

ではなぜ俺のパイ毛と分かったのかと言うと俺のパイ毛は、張りがありキューティクルも傷んじゃいない。

しかもやたら光沢がありゴキブリの背中の様に黒光りしていて下の毛とさほど変わりがない。


「ザッツ・マイ・パイ毛!」


その光々と黒光りした俺の自慢のパイ毛をミックは全く気付かず、
くわえタバコの様にくわえている。


まるで、くわえパイ毛でバイクを直している近所のあんちゃんみたいいだ。


しかしミックは全く気付かない。

気付かないどころか、ミックが息を吐くとパタパタと鯉のぼりの様になびいている。

その鯉のぼりは、ピーンとなびいたりダラーとたれさがったり、てんてこ舞いだ。

誰かがジョークを言うと小刻みに揺れ、バイブレーションの様にシェイクする。

ミックがしゃべると俺のパイ毛が上を向いたり下を向いたり・・・

またある時は右を向いたり左を向いたり・・・

思わず


「ジャンケン・ポイ!あっち向いてホイ!」


と、パイ毛と対決したくなった。

もうかれこれ5分経ったが、まだ取れない。なんという粘り強さ!

何度殴られても立ち上がる「あしたのジョー」みたいだ。

おっつあんがダミ声で


「立つんだパイ毛!落っこちるなパイ毛!」


「2時間前のドーナツのチョコだって、やっこさんの顔にまだ張り付いているんだ、
パイ毛!お前にだって出来る!」


リングサイドからおっつあんの怒鳴り声が聞こえてきそうなぐらい俺のパイ毛は粘り強かった。


雨の日も風の日も張り付いているつもりなのか・・・


俺は楽しんで見ていたが他のみんなは徐々に気が付き始めた。