余計な事を考えているうちにミックは一軒のフラットの前で自転車を止めた。

そこはとても綺麗とは言えない古い木造のフラットで、
広い庭というよりただ芝生が生えているだけの庭らしきスペースがあった。


「カモン」


ミックは俺の肩に手をやり俺を案内するかのように手前の部屋の玄関のドアをノックした。

するとキースはカギの掛かっていないドアを勝手に開け中に入っていった。

俺が躊躇していると


「だいじょうぶよ」


女みたいな片言の日本語でキースが中から手招きした。

中に入ると狭いリビングに14型くらいの小さなテレビにソファーが2つあり
奥にはこ汚いキッチンがあった。

日本だったら月5万円くらい出せば楽に借りられるような物件だった。

部屋は3部屋あり一番大きい部屋から一人の女が出てきた。


「あっどうも」


俺は焦った。


「So Soだ!」


そう、ミックの彼女ミキだったのだ!

俺は頼むからさっきの事は内緒にしてくれという思いでミックを見たが、
顔にまだ付いているチョコと目が合っただけで、ミックは気が付かない。


「ディス・イズ・ミキちゃん」


ミックが紹介した。


「あっどうも・・・はじめまして。」


ミキはニコニコしながら会釈した。

ミキは黒髪に軽くパーマがかかっていて純日本人の顔だちでちょっとお水な雰囲気だった。

歳は26になったばかりで25歳ぎりぎりでワーホリのビザを取得した。

ミックより9歳年上ということになる。

ワーホリでケアンズに1ヶ月ぐらい前に来たらしく、出身は山梨の山中湖。

ほんの一週間前にミックが街でミキに一目惚れし、
ナンパしたのがきっかけでミックがミキの部屋に入り浸っているらしい。

まだ仕事はしていないらしく、昼に起き夕方までミックの帰りを待つという生活だった。

あまり外へ自分から出るタイプではないので、
ミックが帰ってくるまでの間は英語を自分で勉強をしたり読書をして暇をつぶしていた。

部屋の壁には単語を書いた紙が一面に張られていた。