次の日曜日、朝10時頃ノリさんから電話があった。


「少し早いけど今から来ない?」


「いいですよ。」


「じゃ迎いに行くから。」


「いやっ、ヘコンデルタ・・・いやっ、チャリで行きますよ。」


「分かる?」


「たぶん大丈夫ですよ。」


電話を切り、久しぶりに人と会うことに喜びを覚えた。


「今日は予定があるっ!」


毎日どうやって暇をつぶすかというような日々を送っている俺に嬉しい日曜日が来た。

本当に嬉しくなり、いつもより早くヘコンデルタを走らせると意外と近かった。

家に着くなりノリさんが真剣な面持ちで話し始めた。


「うちの店でバイトしない?」


スーツ姿のノリさんを見ていた俺は


「いやっ、ちょっと・・・髪の毛も長いですし・・・」


俺はバンドで仕事を探すつもりでいたので断ろうと思っていた。

しかしノリさんは続けた。


「髪の毛のことは話してあるから大丈夫。」


ノリさんもミュージシャンなので俺の気持ちがわかるようだった。


「バイトしないと金が持たないよ。それに仕事しないと毎日退屈でしょ?」


まったく図星だった。

そして確かにバンドで仕事を探すにしても、まずバンドを探さなくてはならない。

仮にバンドが見つかったとしても、そのバンドで仕事が見つかるとは限らない。

そんなことを半年もしていたら、金が底をついてしまう。

それよりも今は恐ろしく暇な日々から抜け出したい。

そして人にも恋しい。

しかしそれでも俺は「はぁ~バイトか・・・」という気持ちであまり乗る気ではなかった。