冬の朝、高校へ行くためバス停で待つ。

寒くてつい「う゛~、さみー」と、つぶやいてしまう。

しかしそれでは普通すぎるので、


思わず「う゛~、サ~ミエル・ホイ!」と言って寒さをしのいだ。


サミエル・ホイとは香港映画の「ミスター・ブー」に出てくるホイ3兄弟の一人のことだ。


またある時は「う゛~サーミーデービスジュニアー!」ってのもあったが、長すぎて流行らなかった。


トイレに行きたくなり、漏れそうな時は


「あ゛~フランソワーズ・もれシャン!」


しかしこれも緊急時にはとても長すぎて使えなかった。

高校の時、昼飯を喰いに行く時はこうだった。

「メシでもくらいに行きますか」と毎日言っていると飽きてしまったので俺達は


「メシでもクライウルフしに行きますか」と、よく言っていた。


このようにして中学以来、自分たちの言葉を作っていた。

そしてその言葉が俺達以外の人間にまで浸透すると、もうその言葉は2度と使わなかった。

ひねくれ者の俺達は人と同じ事をするのが大・大・大嫌いだったのだ。

いやっ、待てよ?

今、思い返すと小学生の時分から、変な事を言っていた。

変な事というよりは、ダチにあだ名をよく付けていた。

よく遊んでいたダチの中に浅田君という猿に似ている奴がいて、
最初は「さる」と呼んでいた。


しかし一ヶ月も経たない内に「さるすべり」になり、


二ヶ月頃には「さるのこしかけ」になっていた。


目まぐるしく変わった浅田君のニックネームだが、


最終的には「”去る”12月」に落ち着いた。


「今日、4時半から土手でボンバースと試合するから、ちゃんと来いよ!さる12月!」


「あっ、そうだ、ロージンバッグ持ってる?さる12月!」


「じゃー、がんばろうぜ!さる12月!」


浅田君と電話していた俺の隣で親父がぶったまげていた。