次の日4WDに乗って熱帯雨林を爆走するツアーを体験した。

熱帯雨林を物凄いスピードで爆走するだけでなく、
オーストラリアの先住民アボリジニの生活風景も垣間見れた。

アボリジニはデカイ芋虫みたいなものを焼いて食べたり、
木を剥ぐと蟻が沢山いて、それをしゃぶるとレモネードの味がするらしい。

一番興味があったのが、ディジュリドゥと言ってアボリジニが1000年以上前も前から使っている楽器だ。

近年ではジャミロクワイなどのアルバムでも聞けるが、
始めて生で聞いたときはこのオーストラリアの乾いた大地にマッチしていて感動した。

俺がディジュリドゥに人一倍興味を持っているとツアーガイドのデイヴィッドが流暢な日本語で


「私も持っているので今度教えてあげますよ。」


笑顔でデイヴィッドが言った。


「いつまでケアンズにいますか?」


俺がワーキングホリデーで一年いることを伝えると紙に電話番号を書いてくれた。


「いつでも電話ください。」


オージーはずいぶんフレンドリーだと思った。知り合って2時間ぐらいで電話番号を教えるとは・・・


一通りケアンズを満喫し、一週間があっという間に過ぎていった。

俺はそろそろ家族ともお別れだ。

家族とはロクに口も利かなかった俺には「やっと一人で生活できる!」という思いが一番大きかった。

それとすっかりケアンズを気に入ってしまった俺には希望であふれていた。

まぶしすぎる太陽、美しい海、フレンドリーな人々、そして街には音楽。

東京とはまるで逆で子供の時から思い描いていた街がここケアンズにあった。

ダチやドラムキットが恋しくなるだろうが、これからの生活の方が楽しみだった。

親父達を送りに空港へ行った。兄貴は餞別だと言ってエルジンの時計をくれた。

親父は俺の手を強く握り「がんばれよ!」と握手した。

お袋は何も言わず泣いていた。

あれだけ希望にあふれていた俺だったが、なぜか急に一緒に帰りたくなってしまった。

まるで誰かに魔法を解かれた様に夢が覚めた思いだった。


「なんなんだこの気持ちは・・・」