ホテルに戻り7時過ぎ、兄貴と街に繰り出すことにした。

ケアンズと言う街は小さいがバーやクラブは沢山あってきらびやかだった。

驚いたことに殆どのバーにはバンドが入っていて俺にはとても魅力的だった。

昼間でもショッピングセンターへ行けばギターやピアノの弾き語りがいたり、
道端にもストリートミュージシャンがいた。


「ケアンズの子供たちはなんて良い環境にいるんだ!」


それはそれは羨ましかった。

日本では今やカラオケばかりで、バンドを見たければ高いチャージをとる店しかなかった。

オーストラリアへ来る前はキャバレーやクラブで「はこバン」といわれるバンドのバイトもしていたが、
バブル崩壊後、だんだん仕事もなくなり新宿でさえ数軒の店しか生バンドが入ってなかった。

ケアンズの街をふらついていた俺達に一軒のバーの看板が目に入った。


「Johno's Blues Bar ? ここ入ってみようぜ!」


「ジョノス・ブルース・バー」というバーの入り口からバンドの爆音が聞こえてきた。

その音につられ、入ることにした。

入り口には2メートルもあろうキコリみたいな2人がセキュリティーとして立っていた。


「なんかおっかねーな・・・」


恐る恐る近ずくと、1人のキコリが「Hello」と話し掛けてきた。

なんともいえない人懐っこい笑顔で、

5秒まえのビビリはどこかへ吹っ飛んでしまった。


「なんだ、良いヤツじゃん!」


「しかしこっちは夜でもハローって言うんだ?」


すると一人のキコリが訊ねてきた。


「Japanese?」


「Yes」


するともう一人のキコリが片言の日本語で「どうぞ~」といって中へ通してくれた。

なぜか大男がフレンドリーにやさしい口調で話すと、必要以上に優しく見えた。