次の日の朝、ロックハンプトン
へ向け出発した。

今回の旅路は少々長いので昨夜はわざと
遅く寝て寝不足状態にした。

狭苦しいバスの旅にも
少々ウンザリしていた。

サマーはバスの中では映画を見ていたが、
俺には理解できなかったし
映画自体興味がなかった。

ウォークマンを聞きながら外を眺めても
特に珍しい物があるあけでもない。

珍しいどころか一面畑だらけで
東京に立ち並ぶビルが恋しかった。

そんな退屈な時間を潰すには

寝不足しかない!

なんつったって寝不足!これに限る!

うまく6時間くらい
寝続けてくれたらラッキーだ。

気が付いたら着いていて慌てて降りる、
なんて理想だ。

しかしその日は眠くて疲れている
にもかかわらず寝れない。

寝たとしてもすぐ起きてしまう。

その原因は俺の前に席を陣取っている
アフリカ系の黒人のオバサン。

実は若いのかオバサン
なのかは定かではないが、
横にはみ出したその肉体はとても
ティーンエイジャーには見えなかった。

幸い隣の男は小柄でガリガリだったが、
明らかにその男の半分の席を
そのオバサンの横っ腹が陣取っていた。

声は張りがありデカイ、そのデカイ声で
他人に話しかける様は


「この世に怖いものなどない!」


と言わんばかりの迫力だった。

俺は席に着くなりイヤな予感と共に
なにか「プア~ン」と
アメリカン・コーヒーの様な
苦みばしった香りがした。

何の臭いだろうと思ったが、
気が付くまで時間は掛からなかった。

季節は冬にもかかわらず相当暑かったのか
前のオバサンが既に大量の肉汁を放出
しながら頭上のエアコンをいじりだした。