精霊の、中でもドロップスのように幼い者は、痛みや、傷ついたことを忘れることで強くなっていく。育つごとに眠りは浅く、短くなってゆく。だけど誰も彼も、名前まで忘れてしまうっていうのはどうかと思うよ。


『生まれは深い密林、森の中、樹精の蔓と枝で編まれたゆりかごからころりと生まれた。まだまだまっさらな精霊の子ども』

 と言うのが見せ物小屋の売り文句だった。もっともらしく聞こえるがどこまで本当か怪しい。精霊は見かけが幼くとも立派な成人、だったりするし。長いこと幼いまま、と言うこともある。

 かわいそうに、彼女はコヨーテを母親と思って生きてきた。あたし達の名前を言えるようになったのもようやくこのごろなのだ。

 ドロップスの腰の真後ろに、こげかけたしっぽがひょろっと出ている。ひょろり、ひょろりと彼女の気持ちを語るごとくよく動く。
 
 あたしはまだ……これで良かった、とは言い切れない。