それでも挨拶は大事よ。互いに名乗りもしないなんて、どう考えたって不自然だ。
そう考えていると、ジャガーさんが吹き出して、前のめりになって笑った。
おなか、抱えてるよ……。
「あはっ、不思議なひとですね、あなたって。悪気ゼロで。あの方が気に入るはずです」
「あなたの方がよっぽど不思議です。あの方って?」
「いえいえ、これはまた失礼を」
ジャガーさんは咳払いをして話し始めた。
「われわれは時に厳しく竜とやり合う事もあります。特に残虐な竜に接するのには精神力がものを言うので……というよりか」
あたしはちょっと待って、首をひねった。
「命の惜しさを知らないので、厳しい態度をとり、知らないうちに誰かを傷付けてしまったかも知れない」
とても申し訳ないことです、とジャガーさんは言った。
「自我が育ってない幼竜たちは言葉だけを貪欲に吸収するので、別名、ものまね鳥とも言われます」
え? 仮にも竜神様の卵でしょ。
「そう、思えれば気が楽なのでしょう。彼らは無意識のうちに好悪や正義の基準を区別なしに飲み込みます。それこそ際限なく」
あー、それわかるな。人間の子供が周囲にいる人間の言葉をまねっこするの。
……ドロップスも、森の言葉を失って、ここに……いるんだものね。
「そうでしたか、あの少女も……解決法はまだまだあります。頻繁に語りかけてあげてください。抱きしめてあげてください」
あたしはその言葉にほっとした。昔の言葉がわからなくなっていたとしても、ドロップスはこれからも笑って生きてゆける、はず。
ジャガーさんの言う通りかも知れない。子供は周囲の大人達のマネをするものだから。



