「酒の一杯くらい、つきあえよ。要領の悪いやつだな」
大きな独り言を言ってから、ミスターはバカヤロ! と叫んで、高級ワインを開け、犬と子犬たちにふりかけ、残りは自分で呑んだ。
ミスター自身、万人に触れられるような美術品があったっていい、と考えていた。
青年はそれを体現して見せただけなのだ。
『芸術じゃなくったっていい』
「もうけがあればいいのではない。夢がなくては人々は去って行くだろう……」
「お目覚めですか、ミスター」
運転手が勝手に口を開いた。
聞かなくとも言わずもがなのことを言うのは新人なのか?
「ああ、お客さん。こんな話をご存知ですか? 私はあの城の主の子孫でね、伝言を受け使ってるんですよ。東洋からの小柄な方に」
「ふん、なにが面白くてそんな話題をオレにふるんだ」
「愛に背かず、愛に殉ずる、と七代前の初代主が申しておりましたですよ」
「そうか」
「はい」
「確かに聞いた。それでいいな」
「お耳汚しでしたかな」
「いや……」
いつものように彼は欠伸を噛み殺して、キャデラックの後部席に眠るマッチョらを見た。
もう我慢できそうになかった。
眠い。
彼は自分の時計を当てにしてはいない。
いつも大抵壊してしまうからだ。
昨日はドルチェの腕時計を何本喧嘩で壊したか。
彼は穏やかに聞いた。
「今何日、何月、何時何分か、時報のごとく言ってみろ」
END



