「ご注文はお決まりですか?」

ウエイトレスさんのハキハキした口調に、やや焦りながらもあたしはメニューを指差した。

「あ、はい。えっと、ホッとココア一つください」

「わたしはエスプレッソ」

ギョッとして顔を上げると、目の前に座っているいずみちゃんは涼しい顔で水を飲んでいる。


「いずみちゃん、エスプレッソなんて飲むの?」

「うん、家でも時々飲んでるよ。豆の味が一番よく分かるしね」


どういう女子中学生だよ。

彼女の成長スピードはあたしより確実に速い。


ほんのちょっと会わなかっただけでいずみちゃんの身長は伸びて手足はますます長く、表情には明るさが加わって、思わず吸い寄せられそうな光を放っていた。

要するにぐんと大人っぽく、きれいになっているのだ。



「いずみちゃんの中学って卒業式まだだっけ?」

「うん、来週。って言っても中高一貫だからあんまり感動とかないんだけどさ」

「へー、さすがお嬢」

「なにそれ」

いずみちゃんはくすくす笑う。


笑うたびに彼女の目じりは窓からこぼれる光を受けて淡い影をにじませた。



なんとなく良かったな、と思った。

いずみちゃんとこうしていつかのカフェに来て、笑いあえていること。

何だか奇跡っぽかった。



桃の開花ニュースが聞こえはじめた頃、あたしはいずみちゃんから久しぶりにお茶に誘われた。

たまには2人で飲もうよ、なんてメールが来るからおいおいどこのOLさんですか、と突っ込みたくなる。


でも嬉しかった。

たぶんあたしもいずみちゃんに会いたかったから。



「彩香は陽斗と連絡取れた?」

運ばれてきた苦い苦いエスプレッソをすするといずみちゃんは聞いた。

あたしは静かに首を振る。


「そっか、わたしも同じ。パパは陽斗のおばあさんと連絡取れたみたいなんだけど、しばらくそっとしていてほしいって言われて、居場所も教えてもらえなかったって」

「そうなんだ・・・」


もしかしていずみちゃんなら、というあたしの甘い期待はあっさり砕かれてしまった。

生クリームを浮かべたココアが急に重たく感じられて、口をつけずにカップをソーサーに戻した。



「辛い?」


「え?」