「大丈夫大丈夫!」

陽斗はいつものように力をこめて、あたしを抱きしめた。

「ちょっと、苦しいから!」

笑いながら、陽斗の背中を叩く。

でも体が離れると、スースーした風が2人の間に吹いてちょっと肌寒い。

頭はなんだかクラクラした。


それでも、2人で手をつないで道の続きを歩き出すとあたしの心は何グラムか軽くなっているのがはっきり分かった。

それが陽斗といる時間の意味だった。



この風景はいつの頃の思い出なんだろう?

それともどこにもない、あたしが作った幻なのかな。

どちらも今のあたしには、大きな違いがないように思えた。




夕日の中、河原の道の枯れ草を踏みながらゆっくり歩く。

さくさくさくさく。

「今日もいい音だ」

つぶやくあたしの声は、誰にも届かない。

ぴゅうと北風が答えてくれて、それで終わり。


それでも、陽斗がくれた言葉は確かに今、あたしの頃に散らばっている。