「鎮静剤を打ったので、今晩は静かに眠れると思いますよ。・・・大丈夫?」
看護師さんが、不意にあたしの顔を覗き込んできて、ハッとした。
「すみません・・・、大丈夫です」
あたしは看護師さんが差し出したハンカチを呆然としながら受け取った。
陽斗は看護師さんが駆けつけると、ようやく腕を打つのをやめた。
それでも興奮がなかなか収まらず、看護師さんは担当の先生と相談して、陽斗に鎮痛剤を打った。
今、陽斗はグッタリとしたように眠りに落ちている。
そっと覗くと、その目じりは涙で光っていた。
その様子は、野生動物が捕まって檻の中に入れられているようで、とても見続けていられなかった。
陽斗の心が血を流している様子を目の当たりにして、足が震えた。
「先生やご家族と相談するけど、きちんとカウンセリングをしないと治療を続けるのは大変かもしれないね」
ハンカチで目を押さえているあたしを気の毒そうに見ている看護師さんは、優しくそう言った。
「あなたもしんどかったね、怖かったでしょ」
その言葉に、また涙があふれそうだった。
「あたしも・・・、彼の力に、なりたいんですけど・・・」
何を言ったら、陽斗の心に届くんだろう?
夢が見えない彼に、どう接すればいいんだろう?
あたしが、陽斗の心を傷つけているなら、あたしはどうしたらいいの?
全然分からないよ、誰か助けて・・・。
そんな思いばかりが胸の中をグルグル回って、息が詰まりそうだった。
「人の心の傷に向き合うと、その傷の痛みを一緒に受けることになるかもしれない。でも、そういう人がそばにいることで、救われる患者さんも多いのよ」
看護師さんはあたしを励ますように続けた。
「あなたの存在は、きっと彼の救いになるから。無理しないで、ただそばにいるだけでいいから」
あたしが陽斗の救いになる・・・?
でも、それはまだ、その時のあたしには想像もできないことだった。
ただ、果ての無い、闇の中を漂っている気がしていた。


