菜美がさっきとはうって変わって、ぽつんとつぶやいた。


「あたしホントはこんなこと言うつもりじゃなかったのに。もっと他の、大事なことを言いたかったはずなのに」


「菜美・・・」


あたしには、菜美の体が急に小さくなってしまったみたいに見えた。


こんなとき、なんて言えばいいんだろう。


「あたしホントに何やってるんだろう、馬鹿だ・・・」


泣き出した菜美の背中をそっとなでた。


何回も何回も。


あたしがなでるたびに、菜美は大きく嗚咽した。


「もっと早くに気づいてれば良かったんだけど・・・」

そう言いながら泣く菜美に心の中でつぶやいた。



そうだよ菜美、もっと早くにこうして大声で泣いてくれれば良かったんだよ。

泣いて泣いて、すべて吐き出してくれれば良かったんだよ。




そしてあたしも、こうして菜美の背中を何回もなでてあげてれば良かったね。

戸惑ってる場合じゃなかったんだ。

菜美が「もういいよ」って言うまで、こうしてあげれば良かったね。


そう思ったとたんに、目の前の景色が涙でにじむ。




暮れかけている夕焼けの中で、菜美の涙がポタポタと地面に落ちて、そして乾いていった。