玄関を開けるとふんわりとやわらかいラベンダーの香りが漂ってきた。

「いい匂い…」
「消臭剤の匂いだろ、あいつラベンダー好きだから」

玄関先には彼と奥さんのツーショットの写真。

嬉しそうに笑う奥さんと、寄り添う彼。

二人とも手を繋いで、その二人の手にキラリと光る結婚指輪が見えた。

思わず目を背ける。

「ここが俺らのリビングで、こっちが千昭用の子供部屋。まあ俺らもここで寝るんだけどさ」

彼が案内してくれる。

用意されたベビーベットに、おそらく彼と奥さんが寝る大きなベット。

「一緒に寝てるんだねー」
あたしが言うと彼は笑った。

「部屋、狭いしね」

「あ、でも」

彼はにやっと笑った。

「このベットでエッチした事はまだ一回もないよ」
「もう…そんな事ばっか言って…」

彼はベットに横になった。


「今夜はヒナとここで寝よう」
「えっ?」
「いいじゃん、明日も休みだし」
「うん…まあいいけど…っていいのかな?」

子供部屋で?

いつも奥さんと寝ているこの大きなベットで?

彼は無神経。

だけど、あたしは抱かれたいって思った。
このまっさらなベットで、
この神聖な部屋で、
あたしをむちゃくちゃに愛して欲しい。

そう思った。