「ヒナ、ごめん」

彼と一緒に住んでいたアパート、
その一室で彼はあたしに頭を下げた。

理由も何も言わずに頭を下げたまま数分間。

「何?」

別れようって言うの?

他に気になる人が出来た?

浮気しちゃった?

いろんな嫌な事が頭を駆け巡ったけど、
彼から告白されたのはそんな程度のものじゃなかった。




「俺…結婚しなくちゃいけなくなったんだ…」

一瞬で分かったよ。

結婚の相手があたしではない事くらい。
こんなにも頭を下げてるんだもん。


「意味が分からないよ…」

彼の姿を見たら冗談なんかじゃないってすぐ分かった。

あたしが泣くより早く彼が泣いた。

怒り?憎しみ?悲しみ?
よく分からない気持ちがぐるぐる。


「ねぇ…」


あたしが口を開いた途端、彼があたしの身体をぎゅっと抱き締めた。



そしてこう言った。





「お前が浮気相手だったんだ…」