自由のギフト



その後も度々あゆみは大家さんの部屋を訪れ僕とノカを呼びにきた。
決まって同じ箱のケーキを持って。
たかしにはあれ以来一度も会っていない。
教えて貰ったケーキ屋さんに何度もいってみたけど一度も会えなかった。
その事をあゆみに聞くと何も答えてくれなかった。
ただあゆみの話しの中でわ、いつも元気なたかしがそこにはいた。
僕はそれで満足して、その事にはもうふれなかった。

あゆみが最後に僕らに会いに来た日。

進学して学校の寮に引越しする日の朝。

僕らは短いお別れをしてあゆみを見送った。
ホントにあゆみ綺麗になった、可愛いより綺麗って言葉が似合う女性に。

見送りが終わり大家さんと別れるとノカが僕に向かって嬉しいそうに言った。
「たかしくんちゃんとなって良かったね。」「え?たかし君?」
僕にはノカの笑顔の意味がわからなかった。
「だって最初は芋虫みたいだったよ。」
「芋虫?」
「手とか足なかったじゃん。」
「は?」
「だから今日は全部あったじゃん。」
「・・・。」
「最初は恐かったけどだんだん手とか足が直ってきて、今日は全部ちゃんとついてたよ。」

「・・・お家帰ろう。」
「うん。」
僕はノカの言葉が気味悪く感じ、話しを止めて家に帰った。
子供の戯言だと自分を納得させ、その話しはもうしなかった。
ノカもしなかった。


ノカにはずっと見えていた、あゆみの隣にたたずむたかし。
各所の部位がバラバラにされたたかしがあゆみに取り込まれながら元の形へと戻っていく姿が。
ノカが怖がらなかったのはあゆみもたかしも幸せな顔をしていたから。


僕もあゆみ達の幸せをいのる

心から祈る。

淋し気なたかしの優しい顔を想い。
甘いスポンジケーキの香りのするあゆみを想い。