『チャンス君、この図面を見てくれるかい!』


「あれっ!?

エレベーターが一つしか無いですね!」

『社長が渡した図面は、古い方の図面ですねぇ。』


「改築か何かしたんですか!?」


『いいや、してないよ。』


「じゃあ、書き直したんだ!」


『不正解!』


「もったいつけずに、早く教えて下さいよ!」


『ゴメンゴメン!

ここの設計事務所の記入欄を見てごらん。

施工:小谷建設ってなっているだろ。

新しい図面では
施工:金光住建だろ。

実は、最初ここの工事は小谷建設が行う事になっていたんだよ。

チャンス君はバブル期って聞いた事が有るだろ!?』


「僕が生まれる1年前くらいから、僕が生まれてから1年後くらいまでが全盛期だったって授業でも習いました。」


『バブルが弾けて、不動産業や建設業をやっていた人達は、凄い痛手をくらって、自殺した人達も居るくらいだからな。

それでも、細々と頑張って来た人達の一人が、小谷社長なんだよ。

それでも、小谷社長も借金を抱えながらの自転車操業で大変だったそうだ。

うちの社長が、ここにビルを建てるって話を聞き付けてきた小谷社長が、是非わが社に請け負わせて下さいって頼み込んで来たんだ。

事情を聞いた、うちの社長は、何とかして助けてあげたいと思い、ここの工事全般を小谷建設に発注したんだ。』


「でも、私が聞いた話では、金光の伯父さんが建てたって、アボジ(親父)から聞いてるんですが…。」


『そこなんだよ。

小谷社長は、在日朝鮮人だそうで、社長が韓国も朝鮮も兄弟国なんだから、助け合おうって言って、手付金として、全ての金額の半分も支払ったんだよ。


その上、ビルの骨組みが完成した時点で、小谷社長が支払いに困っていると、うちの社長に相談してきたら、じゃあ残りの残金も先払いしてあげるよって言って、結局全額支払ってしまったんだ。』


「そんな無茶苦茶な事!」


『そうなんだ。

その翌日、小谷社長は手形を銀行で割ってトンズラしちゃったんだよ。

小谷社長自身も、会社名義で先付け小切手をばんばん切りまくって、翌月には全て不渡りだよ!

だから、最終的に小谷社長は数億円ものお金を持って、未だ行方不明なんだよ。』


「ひどいなぁ。」


『だろう!』


「それで、ここの工事はどうなったの?」