あたしは波多野の背後の窓に、両手をついた。
ソファに深く座る波多野の横から、腕をぐんと伸ばして。
膝立ちまでしないと、届かない。
あたしに囲われた波多野は暗い、とでも言うように眉を寄せた。
下を向く奴の睫毛、男のくせに長いな。
…なんでかなあ。
「波多野」
なんでよ。
あたしは腕を曲げて、波多野に近づく。
もう、鼻と鼻がくっつきそうだ。
ここからだと、眼鏡の奥がよく見える。
なんてキレイな、波多野の瞳。
なんでだろう。
「波多野」
コイツは、あたしになびかない。
「キスしていい?」
あたしは波多野の返事も聞かずに、その唇に自分のものを合わせた。
波多野が目を閉じてるかも、わからない。
どんな顔してるかも、わからない。
でも。
それでも、コイツの唇はいつでも熱い。
どんなに手が冷たくても、唇は熱を持ってる。
あたしは堪らなくて、舌をゆるやかに忍ばす。
それにめちゃくちゃ消極的な波多野の舌が、ひっこんではあたしが連れ戻す。
そんなことを繰り返していると、息が苦しくなってきた。
変だ。
あたしのリードだったはずなのに。
息がしずらいのは、波多野だったはずなのに。
相変わらず消極的なくせに、苦しくなるのはあたしのほう。
耐えきれずに、唇を放す。
つ、と唾液があたしたちの間を繋いで切れた。


