「ねえ」
「…」
「ねえってば」
「…」
「波多野っ」
「…」
出ました。
お得意のだんまり作戦。
あたしのことが面倒なときとか、あんまり機嫌がよくないときの奴の行動パターン。
こうなったらほっとくのが一番いいって知ってるんだけどさ。
あんまりじゃない?
このあたしが話してるんだ。
少しくらい反応しなさいよ、クソメガネ。
あたしは波多野の肩に手を置いた。
くすぐるように白い首筋を、撫でる。
「…キスしていい?」
ばっ。
そんな効果音がつきそうなくらい勢いよく、波多野が顔をあげた。
眉間には、深い皺がくっきりと刻まれていた。
「キスしたい。波多野」
だめ?
あたしは沸き起こる衝動に我慢しきれなくて、波多野に問い掛けた。
ここで赤くなってくれりゃ、可愛いもんだけど。
肝心の波多野は、私をギロリと睨んで本に視線を戻した。
あーあ。
つまんない男。
アンタにだったら、襲われたって構いやしないのに。
あたしもつられて本を見たが、ヤツとは見る部分がちがう。
まず、波多野の細くて白い指を見る。
角張って触れると冷たいそれは、僅かに動く。
優しく紙の上を滑るように、労るように、ページを捲るときだけ、ほんの僅かに。
その指、舐めてみたいな。
なんてアホなことを考えるあたしは致命傷。
淫乱とか言われてもしょうがない。


