暗い店内で、酒と煙草と香水が混ぜ合って、麻薬になる。
あたしは肌と肌の擦れあう感覚に安堵しながら、バースペースまで行って酒を頼んだ。
一緒に来た友達は、前のほうで踊っている。
いつもよりも派手な服と化粧。
この店に来るのは大分久しぶりだ。
けたたましい音楽が絶えず頭にぶちこまれる。
前はよく来ていたけど、最近は波多野ばっかりかまっていたのでついご無沙汰になっていた。
この空間があたしは嫌いじゃない。
いろいろなことが、シンプルだから。
一人でしばらくカクテルを飲んでいると、馴れ馴れしく肩に手を置かれた。
首をひねってその主を見る。
大きな体で、がっしりしている。
ああしかも、痛そうなピアスがいち、にい、さん、し……
「ひとり?一緒に飲もーよ」
あたしは男のピアスを数えるのをやめて、改めて顔をみた。
っと、唇にもピアスだ。
「いいよ。暇してたの」
そう言ってにこりと笑うと、その男も微笑んだ。
そうよ。
これが、普通の男。
波多野みたいに、あたしに関心のない男なんて、ごくまれ。
物心つくころには、あたしはこの容姿で当たり前のように甘やかされてきた。
男はあたしの腰に腕をまわしてきた。
やんわりと肌が触れあう。
しばらく話をすると、待ちきれないようにキスをしてくる。
あたしもそれに応える。
最初からこの男はそっちが目当てなのだ。
わかっていたけど。
「ね、ホテル行こうよ」
キスも段々深くなっていくと、男の下半身も我慢しきれなくなったようだ。
あたしはためらった。
「あ…まだ、居たい…」
だって、この人キスが上手い。
相当、女慣れしてるのが容易にわかる。
でもまあ、そんなことはどうでもよくて。
「いいじゃん。どうせそのつもりだったんだろ」
そうなんだけど…
違う。
あたしが欲しかったのは、こんなキスじゃない。