ムラノさんは、それからすぐに出ていった。
あたしがやっぱりいい、と言いだす前に帰ったのだろう。
部屋には不機嫌な波多野と、あたしだけが残った。
あたしは波多野の腰掛けるソファの向かいの椅子に座る。
「ねえ」
身を乗り出すと、 椅子はギギギと唸った。
「ねえ、なんでそんな機嫌悪いの」
「……悪くねえよ」
うなだれた波多野はぼそぼそと言った。
「うそ」
「嘘じゃねえ」
「うそだよ。アンタの煙草の数見りゃわかる」
あたしが強めに言うと、波多野はチッと舌打ちした。
それを聞いて、あたしは少し怯える。
怒った波多野は、きらい。
「そんなに、怒らなくてもいいじゃん」
「だから怒ってなんて…」
「怒ったよ。怖いよ」
「……」
「ねえ、波多野」
「…なんだよ」
波多野。
アンタの横顔が好き。
アンタの細い腕が好き。
アンタの、熱い唇が好き。
波多野。
こんなに、好きなんだけどな。
どうして波多野はあたしを好きじゃないんだろう。
「波多野」
「?」
「あたしが嫌いでしょ?」
「なに言ってんだ…」
呆れたようにため息をつく。
でも、否定はしない。
否定、してよ。
ううん、しないで。
もういっそのこと、突き放して。
お前なんか、嫌いだ。
顔も見たくない。
そう、言ってほしい。
もう二度と、アンタを好きだなんて言えないくらいに、ズタズタに。
だって。
だって波多野は。
あたしになびかない。


