「チカちゃん。お酒飲みたい」




あたしは前を歩く小柄なボブに、声を掛けた。


歩くたび、弾むように揺れるそれに思わず触れたくなる。



波多野のときもそうだけど、まるであたしは赤ちゃんのようだ。

なんでもかんでも触って、口に入れる。



チカは振り返ってにっこりと笑った。



「いいね。行きたい。私行きたいお店ある」

「よし。じゃあ決まり」

「待って。ヤナギくんも一緒じゃだめ?」




チカとヤナギくんは付き合ってる。

あたしとチカとヤナギくんと波多野は、同じ高校。


それから、チカだけ違う大学に行ってしまったけど、今でも仲が良い。


「いいけど、だったら波多野も呼んでよ」




なんて、駄々をこねてみる。


カップルとあたしってのもなんか嫌だった。



「今日はだめだよ。ヤナギくんもそう言ってた」

「……けち」




チカは「はいはい」と言ってどこかに電話を掛けた。

まあ、声の高さでヤナギくんだとわかる。



くるくると表情の変わるチカは、見ていて飽きない。



「すぐ来るって」


やった、とでも言うようににこにこと笑う。


チカはよく笑う。



あたしなんかとは違って、可愛らしい女の子だ。

顔やスタイルでは勝てないような魅力がある。


性格も穏やかで、優しい。



あたしは出来ればこんな子になりたかった。



誰からも好かれるような、チカに。



波多野のことを、穏やかに愛せるような、そんな女の子に。