「ねえ」
あたしの声に、波多野は背を向けたまま立ち止まった。
自慢じゃないけど、あたしは顔が良かった。
今回、こんな目にあったのも、それが原因みたいなものだ。
大体の男は、あたしをちやほやするし、女は羨ましがった。
なんとなくあたしは得した人間だと思っていた。
波多野が自分にひれ伏すのが、当たり前のことだと思っていたのだ。
「よくもアンタ、あたしを放っておけるね」
普通、男なら「どうしたの、大丈夫」くらい言えるでしょうに。
弱っているあたしを見て、なんとも思わないのか。
なんでコイツは無視なのだ。
あたしは不条理な苛立ちをそのまま言葉にした。
「あたし泣いてんのよ。気、使えよ」
ばかみたい。
怒る相手は、この男じゃないというのに。
悪いのはあの子達なのに。
あたしがやったのはただの八つ当たりだ。
思い通りにいかないから、怒る。
まるで幼児。
それなのに、波多野は無言であたしに近づいた。
また無視されるのかと思ったのに。
予想していなかったので、ビクリと肩が震えた。
あたしが怯えたように、波多野を見上げると、ヤツは手を差し出してきた。
その動作にほっとすると、あたしは恐る恐るその手を両手で掴む。
ゆっくりと引き上げられて、情けない姿で立ち上がった。
波多野の手はすごく暖かかったのを覚えている。
そのまま手を引かれて、倉庫の外まで出た。
外のほうが風もふいて、より寒くて体を縮めた。
急に振り返った波多野があたしを見た。
月明かりで薄暗いのに、あたしはその瞳がギラギラとしているのに気づく。
「…あ」


