彼女が読んでいたのは、一匹の小犬が飼い主の少年から逸れ(ハグレ)、幾多の苦難を乗り越えて成長していく様を描いた作品だった。
 それはごくごく、有り触れた小説だったかもしれない。

 しかし、エンディングを飾る子犬から成長したジョイと、青年となった飼い主ハリーの再会。
 そして、ジョイを守る為の身代わりとして、交通事故で命を失うハリーの物語を彼女が読んでいたのは、ある種この後の運命的な繋がりを 暗示させていた。

 その、運命とも言えるシャーリィ・ウッドソンの出会いは、突然の怒声によってプロローグを迎える。

「 待て! 」
 公園を 息遣い荒く走り行く少年へ、怒声をあげる白人男性。
 シャーリィは、木々の間から見え隠れする二人の姿に何故か、ベンチを立ち上がっていた。