「…そう言えば…あなたと同じように発見された方がいらっしゃるんです」

 ある日のこと看護師が思い出したように口にした。

「…え?」

「その方は角宮さん宅で療養されてます」

「なぜ…こちらでは無いのです?」

「角宮さんの奥さんが、元・看護師だからです、それに腕もよろしいんで安心してます」

「…なるほど」

「ええ…」

 なんて事の無い会話だ。それでもこの会話が奇妙なもので、そしてどこかで聞いた覚えがある気がした。記憶が戻ればハッキリとはするのだろうが、だが頭の中が霧がかかったように、思い出すことができない。

「もし…よろしかったら会われてみては?」

 看護師の言葉を素直に聞き入れたくも無いのだが、それでも無難な答えを選んでいた。

「ええ…考えておきます」

「では体が動くようになったら、一度案内しますね…もしかしたら何か思い出されるかも知れませんし」
 
 納得できる事なのだが、どうしても聞き入れたくないと思った。理由がわからない聞き入れるしか無いのだが、それでも体の芯から滲み出る不安は消せそうにも無かった。