表に出さないどころか気付いてもいないだろうけど。
「平気そうな顔してるけど、不安だらけみたいなの。」
自覚はなさそうだけど、彼女は不安なときにこそ平気そうな顔をする。
「由那って強いけど、弱くないわけじゃないから。」
彼は次の言葉を待っているようだった。
「あたしは練習するきっかけをあげた。だからあんたに本気で走るきっかけを作ってあげてほしいの。きっと新条にしかできない。」
あたしは足元へ落としていた視線を彼に向けた。
「頼んだよ。」
それだけ言うと彼は静かに立ち上がってグランドへ駆けていった。


