彼女は全てを振り捨てるように去った。


 別にあれが男の演技でもかまわなかった。


 わざわざとどめをさす必要性も感じなかった。


 だから、呼吸と循環器系の生き死にも確認しなかった。
 

 彼女はそこで何かを見つけたのだ。
 

 何かのために、闘う自分を。
 

 守る為でも、殺意に駆られたわけでもない。


 誇りに、近いものを。


「……ああ、だから土地を離れられないはずのわたしが選ばれたのか」


 ルナのためではなかった。


 自由と誇り、それはだれにでも享受でき得るものではない。


 闘う者だけが手にすることのできる何かだった。


 それが何か自分は知らなかった。


 だから父親は言ったのだ。


 聖塔へゆけ、と。


 その瞬間、ルナを守る為に。


 今こそ、全てを捨て、自分は生きるのだと思った。


 いや、そうではなかった。


 実際、今までの自分を振り捨て、元の場所で、ルナの隣で笑っていられる自分に戻ろう。


 と、ダーナは思った。
 

 なにも知らぬ気な、それでいて全てを見通してしまうルナだから、きっと、きっと……