そのときは彼女の命ははかないのだけれど、と。


 ルナは言葉をのみ込んだ。


 あのときマリアを思って必死に輝いていた彼女の胸にはエルナリアと、はっきり真名をまとうオーラが見えたけれど。


 それはルナにしかできない。無理だ。


 今、その背には頼りない、心細さで、


「さようなら」


 と……すでに、男の手に触れられた時点でスティグマが刻まれていたのだ。


 ところの貧しい貧富の差が大きい町では、貴族が処女をたしなむ為に娘を買うという噂が立っていた。梅毒患者の中で……
 

 そんなことはルナ達には預かり知れぬことではあったが。
 

 そのとき泉の方で水音がした。


 ルナはダーナを向かわせた。


「何をしている! 仮にも聖職者がこんなまねをしていいと思っているのか」


 ルナの処にはダーナの叫びが聞こえ、また、親友と結婚してしまったという元婚約者だったらしき男の名を呼ぶ声が弱々しく聞こえた。