そして自分に与えられた役目は彼女に欠けたものを与えること。


 命を、と言われれば差し出すのだ。


 そう、言い聞かされた。


 だから、枝に吊られた薄汚れた猫を降ろすのも自分の役目。
 


 彼女は衣服の中に仕込んでいたナイフで猫を戒めていた細い綱を切った。


 細いほそい、紐みたいな綱だった。


 それでも仔猫の命を奪うには十分。
 

 ぱっとルナが駆け寄った。


 ダーナの手から受け取ろうとする。


 あらがおうとするダーナ。


「ルナ、これは……」


「マリアにさわっちゃだめだ」


 ルナはじっとその子供を見た。


 汚れている。親があれば放っておきはしないはず。
「わたしはルナ。あなたは?」

「知らない」
 かたくなな少女に、ルナは両手を合わせて礼をとった。

 ルナには不思議な力があった。

 
 心から相手のことを思うとき、その相手のオーラが見えるのだ。そして真名も。


 その奇異な能力のために山村の奥深く、人の目のつかぬ場所で育てられた。

 ダーナと一緒に・・・