「吟、今すぐ、行くぜ」

俺達は吟の住んでいたビルに向っていた。

「言ってるわりには足取りがしっかりしない奴だ」

「確かに」

しかし、完治など待ってはいられない。

「なあ、あの姉ちゃんに、何があんだ?」

「特別、何かがあるわけじゃないんだ」

以前、吟は少しだけ自分の事を話したことがある。

吟は最古の部類に入る妖魔であるが、力では決して頂点に立つ事はない。

龍姫の父親である龍王の下で龍姫と共に魔力活用の技術を学んだ過去がある。

ある程度は魔術の使用が出来るが、龍姫ほどではない。

悪い言い方をすれば、中途半端であるという事だ。

だが、戦闘での経験は誰よりも多く、強い部類に入る。

そして、吟が男と交わる事が多いのは好きと言う事もあるのだが、吟が独自に開発した特別な技術を用いて、男性の精液を魔力に変換するのだ。

それは、自分にかけている若女法の魔力消費を回復しているという事だ。

女性からでも採取できるのだが、量は男性の方が多いというわけだ。

「ここが、吟が住んでいた場所か」

途中で出会った住人の話を頼りに、辿り着いた。

ビルを見上げると、上空から何かが落ちてくる。

クルトを抱え咄嗟に避けると、落ちた物は衝突によってバラバラに破壊された。

よく見ると、破壊されたのは机だった。

「琴の能力か」