再び、本部の前に立つ。

「暴れるなよ」

武術を使わせないように縄で縛っている。

「すぐに帰すから、文句を言うな」

「アタイは」

事情は聞かないほうがいいだろう。

丁度、社内から出てきた屋台を引いた丸のおっさんと、外回りに行くであろう萌黄さんに出会う。

「萌黄さん、お届け物です」

「葉桜君に瑠璃子」

俺は丸のおっさんに瑠璃子とナイフを渡す。

「じゃあ、俺はこれで」

合格不合格は後日なので、今は用はない。

「ちょっと待つですの」

「何ですか?」

「瑠璃子がご迷惑をかけたですわ、ごめんなさいですの」

「彼女の傷を労わってやってください」

背中を向けて歩き始める。

「ち」

腹を立てても、何も変わりはしない。

だが、少しは、変わったはずなんだ。

少しは。

「本当、そうなのか」

悩んでも仕方ない。

傷痕を残した妖魔や人達を見ながら、日常を生きるしかないんだ。

「帰ろう」

立ち止まった足を、再び進めた。