「愛されすぎて困った」

「吟には魅力があるからな」

他人と肌を重ねるから駄目だとかじゃない。

それを覆すような魅力があるのだ。

「お前にも言う事がある」

「何?」

「笑って生きろ」

「笑う、か」

最近、笑う事がなくなった。

次々と起こる事件によって、表情の変化が乏しくなったような気がする。

「お前は強くはない。だから、せめて、誰かを、安心する笑顔を与えてやれ」

「ああ」

悲しくても、辛くても、笑う事を忘れてはならないという事だろう。

「そうだな」

俺は、笑顔を作る。

「それでいい」

吟は微笑を浮かべる。

悲しくても、寂しくても、痛くても。

笑う。

「もう少し、傍にいてくれるか?」

「当たり前だろ」

「すまないな」

吟は目を閉じる。

「吟、俺は、幸せだ」

目を閉じているからといって、笑う事を止めない。

「私もだ」

ただ、時間が過ぎていく。

そして、彼女は、夢を見たまま、旅立った。