バニラ

「葵ちゃんのこと好きになっちゃったんだ。独り占めしたい。ダメかな?」

「・・・。」

照れていたんじゃない。

ただただ分からなかった。

いくら考えても答えが見当たらなかった。


あの頃、葵は初めての夜の世界に身を置くことがステイタスで、頭の中は大人達といかに上手く仕事をするか、認められるかを懸命に考えていた。


20歳になったばかりのその女の子は精一杯背伸びをし、勇気を出し店の扉を開いた。

ー身のほど知らず―

何処かでそんな声が聞こえたのかもしれないが出来る限り生きてみたかった。


その中で客に甘い声を掛けられた際の対処法まで正直身につけているはずもなかった。