バニラ

どうしてだろう。

必要な時に文之は葵の傍には居てくれなかった。

結局その程度の愛情なのかとうなだれるのに、文之のあのくったくのない顔つきと声に何度も着いていってしまう。


文之は元々既婚者であったため、葵は当初自分にとって、その存在理由が見当たらなかった。

奥さんも子供もいる人がどうして他の女に平気で好きだと言えるの？

あの頃「好き」と言われてもどうしても理解出来なかった。


「好き」とは？時代は友達や知り合い程度でも「好き」と平気で言い合うまで変わってしまったのだろうか。


文之に初めて目を見てそう言われた時、葵は多くの疑問と、そして怒りさえも感じていた。