阿倍はいつもどこか寂しそうな顔をする人だ。

初めて会った夜もそんな顔をしていた。
この男は今楽しいの?つまらないの?

何も感じ取ることが出来ずに葵は酷く戸惑っていた。

「阿倍さん、何飲みます?」


「いや、僕は何も飲まないから。というか飲めないんだ…。
君は好きなものを飲むといい。」


パブに来て何も飲まない、飲めない男とは?

そして落ち着きのないこの男。
何を求め何を発しているのか全く分からなかった。


後に苦い沈黙を破る阿倍の一言。

「君のような美しい女性に会えて僕はとても幸せだよ。」


何か話さなくてはと、阿倍の焦った一言だった。

しかし真剣な表情でそう述べた。


くわえたタバコが逆さまだ。

葵は思わず笑ってしまった。

女は歯のうくような甘ったるい言葉を好む。

いつかの夜もこんなふうに誰かに言われたっけ。


「お店何時に終わるの?君が終わるの待ってるから。」