水色のエプロン

「私トップノット苦手なの・・・。」
 頭の毛をセットペーパーで巻き、中央にバランスよくリボンをつけるのもとても難しい物だった。
「まず、目尻から、耳孔までの毛を取ってと・・・。」
 私がぶつぶつ言いながら、手を動かしていると。ポッキーが私に忠告をした。
「リルはリボンの位置が気に食わないと。そのリボンを地面にこすり付けて取っちゃうんだ。ちゃんと綺麗につけないと、やり直しすることになるよ。」
 ちょっと意地悪な口調のポッキーの言葉に動揺したけど。私は何とか一回で綺麗にリボンをつけることに成功した。
「後は裾をまっすぐカットするだけね。」
 私はリルの足をトリミング台の淵に立たせ、台すれすれの裾のラインをまっすぐカットしやすいように工夫した。そして足回りは外側の毛を捲り上げて丁寧にカットした。
「できた。」
 リルは自分の姿を鏡に映してチェックした。
「まるで女優さんみたい。」
 私がそう言うと、ポッキーがまた口を開いた。
「リルはシーズー専門の雑誌に載ったことがあるんだ。いわゆるドクモってやつだね。」
「ドクモ・・・。ポッキーはいろんな言葉を知ってるのね。」
 ドクモ、人間のファッション紙なんかでも流行ってるけれど。読者モデルのこと。最近はワンちゃん専門の雑誌も増えていて、家のペット自慢だったり、犬種ごとの特集だったり。お家の犬の写真を雑誌やサイトに投稿できる場も増えて来ている。
 仕上がったリルの姿はまるで菊の花のようだった。
「あなたたちシーズーは中国生まれ、その中国では獅子狗(シー・ズー・クォウ)と呼ばれ、それがそのまま犬種名となったのよ。それからもう一つ、鼻を中心に菊の花が咲くように、毛が生えてくることから菊の花の犬という別名もあるの。」