水色のエプロン

いくら言うことを聞く、利口な犬のネオでも、今日も会話を交わしたほかの犬のように、言葉を交わせないことが、とてももどかしい物に感じた。
「つまんない・・・。話が出来ないネオなんて・・・。」
 私の心はいつしかネオから離れて行ってしまっていた。
 ネオはこんなにもまっすぐ私の瞳を見つめていてくれていたのに。

 いつの間にか眠りにつき、目覚ましに起された。今日も一日の始まり、朝ごはんを取り、ネオにもご飯をあげる。
 ネオは差し出された餌を無言で食べた。ネオは犬だ。当たり前のことなのに、心に隙間が空いたように虚しい。
「お腹減ったとか、おいしいとか、ご馳走様とか言ってくれたっていいのに。」
 ネオはその言葉に振り向き私の顔を見つめていた。
「なによ。ネオ。何かあったらフレディーたちみたいに言葉で話してよ。」
 私はそう言って家を出た。
早くフレディーたちと話をしたかったから。

自転車のペダルをこぎ、まだ太陽に温められていない、朝のひんやりした空気を体全体で感じた。店に到着し、自転車を止め、裏口に廻ってフレディーから鍵を受け取る。開店の準備を整えるのも初日より、だいぶスムーズにここまで終わらせることができるようになった。
「今日一番の予約は、シーズーのリルポッキー。変な名前ね。」
 カルテを見ながら私はそう思った。
「変な名前なんかじゃないさ。リルポッキーじゃなくって、リルとポッキーの二匹別々の名前なのさ。」
 カウンターの横で伏せていたフレディーが口を開いた。
「え?二頭の名前?やだ、ってっきり一頭の名前だとばかり思っていたわ。」